中古のレコードにまつわる思い出〔東京・荻窪編〕

 今朝は自転車で重いものを運搬する作業をしました。

 寒いですね。毎日。

 午後はちょっと疲れてしまって横になりました。ノドが痛い感じがします。

 イラストのお仕事なんですが、おとといに提出したラフスケッチに訂正の連絡が入ってきました。仕上げの作業に取りかかります。

 追加のイラストが発生したようですが詳細は原稿が入ってくるまで未定。ちょっと忙しくなるかもしれません。しっかりやらないとマズいかも。

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 きのうのエントリで富士山ご当地アイドル「3776(みななろ)」によるストラヴィンスキー氏の「春の祭典・いけにえのおどり」のダンスビデオ。についての感想を書きました。大変にすばらしい音楽とその踊りでした。

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 本日の内容は単なる私の思い出話ですが「春の祭典」についてです。

 私が建設現場でアルバイトをしていた頃ですから30年ほども前の話です。

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 当時の私はドビュッシー、エリック・サティときて、この辺は割とニューウェイヴとかポストパンクの人には愛好する人も多いので意外に必修科目なんですが、その先ですね。ちょうどチャイコフスキーさんの楽曲に「祝典序曲」という破天荒な音楽があると聞いて中古盤で手に入れてビックリしてみたりした後です。「こりゃ案外クラシックもスゴいぞ」って、わかりかけてたんですね。「あいつら身なりはまともだけどアタマはおかしい」と。そういう人もいるんだと。前例にこだわらずその先を行きたガール人たちの存在ですね。

 なにかで読んだかで「春の祭典」という曲がキテレツだと。そうなのか。聞いてみたい。中古で安く。ってワケでその機会をうかがっていた頃でした。

 この先、東京の地名が出てくるんですけどね。「荻窪(おぎくぼ)」っていうJRの駅があるんですけどその電車に乗ってる時に北を向いて乗って行ってガックンって停車した時に割と新宿寄りに乗車していた場合に目に入る小さな商店だったり飲食店が並んでいる一角があるんですね。先ほどネットで確認してみたんですが、案外に往時の姿をとどめているようでおどろきました。

 しかしそんな割と年季の入ったお店の姿とウラハラにちょっと右手には背の高い立派なビルが建っております。私このビルの建設に携わったんですよ。バイトでね。90年代に入った頃だったみたいです。調べてみると。

 5回か6回ほど現場に入ったと思います。割と季節としては良い時期。というのもひざ下まで雨水がたまっている地下室みたいな場所で資材を運搬して上階にあげるという作業をした記憶があるんですが、寒い時期だったらやってられませんけど、そうしたネガティブな記憶はないので暑くもなく寒くもない季節だったんだと思います。

 このビルの作業は地下の基礎だけでした。私がバイトしてた工務店的には。地上階が組み上がっていく段階では入っていません。しかし地下は深くてですね。15メートルくらいはあったと思います。そうそう、ビルの名前ですけど「DAIWA荻窪タワー」っていうのかな。作っている時点ではゼネコンの社屋らしいぞみたいなこと言ってましたけど、まぁ当たらずとも遠からずっていうかね。

 ネットで調べると「地下2階」ってことになっているんで私の書いた「15メートルくらい深さがあった」っていうのと合致しないんですけど、最下部に空調だったりの設備とかを納める場合は往々にしてあるので、大きなビルですし私の記憶はそんなにマト外れじゃないと思います。

 そのビル建設現場のすぐ近く、先ほど紹介しましたちょっとゴチャッとした商店群ですね。目と鼻の先ですよ。ソコに「月光社」っていう非ッ常に良い名前の中古レコード屋があったんですよ。今もあるみたいですけど。当時は主にクラシックのアナログ盤を主に扱っていたと思います。つまりチャンスなんですね。「春の祭典」。お昼休みに覗いてみようと。レコ箱をね。おそらく相当に有名な曲ですから置いてあるに違いない。根拠の不明な決めつけです。

 しかし何しろバイトとはいえ肉体労働ですから特別に体調が良い時に行ったと思います。午後にひびかないように。ケガの元ですからね。とりわけ天気の良い日に体調も整えて「たのもう!」って感じです。勇んでお店に飛び込みました。

 すると良くしたもので、なんなく「春の祭典」を発見。当時はっていうか今でもどれが有名な良盤かなんて知りませんから目についたヤツで安い盤ですよね。千円しないヤツ。「案外早く見つかった。これ買って現場に戻ってひと眠りして午後の作業に備えよう」。つまり手早く会計を済ませたいのです。

 ところがですよ。盤をあさっている時分からなんとなく耳には入っていたのですけどレジの前に常連っぽい若い男性が立っていて店主らしき人と歓談中なんですね。その内容が問題です。

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 そのようすを絵にしたものが本日のブログイラストです。

 店主さんはウサギさんとして描きました。チラッと1回その時だけ見ただけなのでかなり違っているかもしれません。私の記憶ですとずんぐりした体型。通じるかわかりませんけど斎藤雅緒さんっていうイラストレーターの方がいて、印象としては近かった記憶です。斉木しげるさんのご実兄ですけどね。もちろん当時のまだ若い頃の印象ですが。いろいろ書いたけどかえってわかりにくいかもしれませんね。失敗だったかな。

 ビックリしたのは店主氏のすぐ前に設置されていたレコード・プレーヤーでして見るからに高価な感じ。ターンテーブルの造りが立派で、ホールケーキの厚さとまでは言わないまでもカステラ程度の厚みはあったと思います、「うぅわ高そう」みたいに思いました。ヨドバシのピュアオーディオのフロア以外であんなの見かけたことないです。

 若い方の描写に移りましょう。ウォンバットさんとして描きました。この人も体格が良くてね。背も高かったと思います。それますけど当時の私はデザイナーから肉体労働に転向して苦労していた頃で当時はまだ50キロ台中盤。筋肉がありませんでしたから特に上半身。スケボーしていたせいで下半身は人並み以上にあったのでその利点だけでバイト時代を乗り切った感じでした。マとにかくやせていたと。今より8キロほど軽かった。

 イラストではネコがヘルメットをかぶっていますけどこれは作業中のもので、お店の中っていうかお昼休みの時点ではぬいでいます。地獄のような長髪でしたけど三つ編みにして丸めてゴムで留めていたので見た目はオールバック風でした。

 若い方に戻しますが、下校途中の高校生の人だったと私は見ました。どうやら吹奏楽をやっているようだと思いました。なぜそう思ったかの根拠についてはすでに揮発済みです。そりゃそうだ。30年前だからね。それでその男性が割と力説しているのです。

 「いまどき「春の祭典」なんか聞く人いませんよね!」という非常に問題アリな論調。しかも話の流れでポッと出た感じではなくて、2度か3度その説を繰り返しているんですよ。完全にその場における論点ですよね。

 私にしてみれば早く「春の祭典」をレジに出して現場にひいたベニヤ板にねそべって横になりたいのにね。ハナハダ持って行きにくい。迷惑。ナゼ、よりにもよって「春の祭典」ピンポイントでディスるようなコトを申し上げているのかと。

 心境としては大変にジリジリとしましたけど、おそらくそんなにガマンもできずに会計したんだと思います。今思えばね。

 別に何事もなく淡々と会計できました。まさかお店の中に渦中の「春の祭典」の中古盤を抱えて困っているホコリまみれの作業服男性の存在があるなんて思いもせずに歓談しているだけですからね。彼らにしてみれば。

 まだそんなに忙しくなる前の割とヒマな時間におけるクラシックファンである若い人との意見交換ですから、お店の人も楽しんでしていたことだと思います。

 私にしたところで去年の年末にチラッと書きましたけど若い人特有の視野の狭さからくる極端な意見。そこに立脚して何か新しいものが生まれるんじゃないかという期待。これはおそらくその頃からあったんでしょうね。私自身がまだ若い時分でしたけど独自な意見は嫌いじゃない。応援したい気持ちすらある。そんなワケでちょっと申し訳ない気持ちでした。

 それらを購入したレコード袋と一緒に抱えてすぐそばの建設現場のゲートをくぐったと。そうした記憶、むかし話でした。長くなっちゃってすみません。ありがとうございます。

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 以上が、私的「春の祭典」にまつわる記憶なんですが、どうでしょう。あの青年ね。

 その後に「春の祭典」への扱いだったり、心境の変化あるいは心的成長というものがあったのか、なかったのか。高校生からのクラシックファンなんて思うに一生クラシック好きでしょうから。しかも権威に負けずに独自の見解も持っているワケですからちょっとしたモンなのかなという。

 その時限りの出会いでしたけど、「春の祭典」という曲の存在を思い出すたびにあの日あの店あのお客さんが思い出される。そんな次第です。

 思えばあのお店「月光社」にも1度行ったきりでしたけど妙に思い出深い。ちょっとした小さな出来事があっただけでずいぶんと違うものです。