ライブ・レポート「ビオトポス(biotopos)2020年9月13日(日曜・夜)」

koln_200913

 10日ほど前の夜の出来事になるんですが、珍しくライブ・コンサートを聴きに行きました。

 富士市内のジャズ系のライブハウス兼カフェみたいなお店。
 「ケルン」という名前です。
 ここはけっこう古いお店。

 以前は東名高速の側道近くだったかにお店は位置していたようで、私の知り合いがバンドの練習で使ったこともあったとか。まぁもしかしたら別のお店かもしれませんけど、当時は頼めばリハスタとして貸してくれていたのかと思います。

 今は市内の平地の方。商業施設と工場地帯の境界線みたいな位置で、長く営業されています。

 当ブログは最近、浮世絵ぽかったのでその線でいうと、東海道五十三次の「左富士(ひだりふじ)」のすぐそばです。

 割とちゃんとした演奏家もツアーの一環としてこのお店で演奏するコトもあるみたいで。つまり音響的には何の文句もありません。イイお店ですよ。
 私は地元のビッグ・バンドの演奏があった際に1度、来たことがあるんですが、それからもう10年くらい経ちましたかね。あいかわらずイイお店でした。

 最初から順を追って記しておこうかと思います。

 このご時世ですからお客さんの数も数十人限定で、予約が必要なシステム。

 私はロックファンですから、私が予約を入れた影響で富士市周辺のジャズファンをジャマしてはいけないと思い、当日まで予約はせず。

 しかし出かける前に「さあ!」と思い、電話したらずっと話し中。これは予想外でしたので困りました。
 しかし出かけると言ってもそんなに遠くありません。
 行くだけ行って店頭でようすを直接聞いてもイイだろう。私らしいザツな感性を発揮して行ってきました。いつもどおり自転車です。

 すると何の問題もなく入れました。良かった。
 お客さんの数にまだ余裕があったのです。

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 それでは次にバンドの名前や音楽性です。
 「Biotopos(びおとぽす)」というバンドです。おそらくだいたいみんな静岡県人。5人組。

 このバンドの聴きどころは、離合集散の美しさですよズバリ。
 全く私の独断ですけど。

 楽器がウマい人だけに許される境地ですよね。
 各自が思い思いに演奏してカオティックになる部分と、ガッチリ合わせて曲の転換点ね。そこは決めていく。そしてまたフリーな演奏になって行くといった。

 またこれも私の想像ですけど有機的な、バンド名の「ビオトポス」っていうのもそうした各自の持つ小さな世界と、バンド全体の大きな世界の融合。そこを目指しているのではないかと思います。私の勝手な推測ですが。

 激しくもあり、優しくもあるという幅の広い音楽性だと感じました。
 もう本当に色々やってもらって大満足でした。私は。

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 長谷川孝二(テナー・サックス)
 豊島正己(キーボード)
 遠藤正己(ギター)
 もよぽん(ベース)
 武藤 満(ドラムス)

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 キーボードの豊島さんがリーダーであるようです。
 曲のテンポの指示、転換での合図なんかもその場で仕切っていました。
 また、カバー曲を除いたほとんどの曲で作曲も担当しているようです。

 メンバー構成としては、ドラム、エレキのフレットレス・ベース、エレキギター(箱)、それとテナーサックス、以上の方たち。
 けっこう意欲的な構成ですよね。

 キーボードの人がリーダーですと、ともすればギターかベース。どっちかっていうとギターを抜くパターンが多いのかな。ジャズ系ですと。
 これにはワケがありまして、なんとキーボード豊島さんの使う楽器が3オクターブのミニ鍵盤なんですよ。これは思い切ったね。
 しかしそれと引き換えに得られる機動性がスゴい。ラク。
 ピアノが置いてあるライブハウスは多いですけど、エレピとかクラビとかオルガン、シンセの人は搬入の手間がありますからね。あれは大変。

 それと3オクターブという狭い音域ですけど、それが故に高い方にも低い方にも他の人を迎えられるんですね。

 他にも例がないワケじゃないとは思いますけど、けっこうな発明ですよ。

 もちろん今の楽器ですから音域変更も容易なハズですけど、私が見た感じ、固定した3オクターブでなんとかやりくりしている印象でした。

 数年前でしたか。ヤマハが過去の名機をミニ鍵盤3オクターブの構成で何機種かまとめて出したことがありましたけど、それのエレピ版です。
 あれってCPなのかな? 詳しく知らないんですが、しかし音に芯があり、華やかさと奥深いエレピならではの渋みっていうか苦味っていうかね。そのへん備えていてもう言うことなし。良かったです。やっぱり大きいイイ音で聴けると幸せですね。

 サックスとのユニゾンフレーズ多し。コードはおのずとクローズドな押さえ方になっちゃいますけど、むしろ良い効果の方が多い気がしました。
 たまに右で押さえながら左で上からクロスするようにして上の音をパラパラ付け加えるようなそぶりも見えました。

 まぁとにかくあのヤマハの一連の商品構成を見てニヤリと笑ったヒトが静岡県内に確実に一人はいたワケですね。

 ついでに書いておくとエフェクターはひと通りボードで持ってきていて、やっぱりエレピの人はモジュレーションにはこだわりたいのかライン6の例の緑色のヤツ。定番。カタチも色も独特なんでアレだけはパッと見て分かりました。その他は不明ですけど、最近加齢で目が悪くてね。暗いし。昔はこんなコトなかったのにね。耳で聞いて効果がわかりやすいのだと残響系は効果的にお使いのようすでした。

 今回のライブではストラップをつけて立奏でしたけど、ネットで見られる他のライブ動画ですと椅子に座ってるパターンもあるので何でもイイみたいです。

 何でもイイといえば上で述べた通り、割とユニゾンフレーズはよく出てきてましたけど、そんなに気負わず弾く感じの方で、私はイイなと思いました。
 ユニゾンはもちろんお好きなんでしょうけど、どちらかというとソロワークにおけるボイシングに燃えるっていうタイプに見えました。実際に見ていて非常にスリリングで、イイもの見せてもらったと感激しました。

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 このバンドを知ったのは去年の後半くらいになるのでしょうか。

 私が好きな静岡のロックバンド「アトミックファーム」。そこのベースとボーカル担当の方がステージ・ネームを“もよぽん”っていうんですが、もよぽん氏がビオトポスでもベースと歌を担当しているんですね。

 ネット上で知りまして、最初のきっかけとしてはそれで興味を持ったんですが、上で述べた通り、かなり注目すべきユニークさを備えたバンドなんでビックリして。
 これはどうしても見たいと思っていたところに地元の富士で演ってくれると聞いて駆けつけたワケですね。
 本当は3月に予定されていたライブなんですが、延期になりまして。Covid-19がらみで。いやーもうバンドをやっている人にも大変な世相です。

 しかしマおそらく好きな人は相当に好きな音楽性だと思うんで。ビオトポスね。見に行かれるのをお勧めしたい。バンドは生き物ですからね。もうこの手の音楽が好きな人になると十分にその辺わきまえていると思いますけど。

 この流れだとまずベースの「もよぽん氏」に言及したほうが順番として良い。
 このバンドにもよぽん氏を引き入れた人の目の付け所の確かさを称賛したいです。超適任。歌も歌えるし。

 この冬にアルゼンチンの世界的に注目されるギタリストであるフェルナンド・カブサッキ氏が静岡で演奏を行った際にベースを担当されたんですよ。いわば静岡代表といっても過言ではない。
 著名ミュージシャンを間近でその存在を感じ、合奏されたというワケで得る部分大だったと思います。
 残念ながら私は見に行けなかったんですが、がしかし元々、非常に意欲的に自身のバンド以外にもあちこちで弾いてる人です。

 今日のライブではリフものが良かったかなと思います。
 ローランド・カークさんの「アイ・セイ・ア・リトル・プレイヤー」(のベース・パート)なんかお上手なハズです。きっと。

 もよぽんさんの音は一般のビデオカメラ的なものですと非常に拾いにくい音質をしているのでやっぱり現場で見ないとキビしいタイプ。
 非常に生命力を感じさせるラインで。フレットレスベースなんでスゴくそういう印象。
 本日、その場でもれ聞いたお話によると、ミック・カーンとかパーシー・ジョーンズとかがお好きだそうです。なるほどねと思いました。
 詳しく聞いたら、渡辺等さんなんかもお好きなのかもしれません。ハードな方だと諸田コウさんとかね。亡くなられて久しいですが。

 今日のライブでは、1曲、もよぽん作の曲も演奏されていて、バンドに欠くコトのできない存在となっているのだと分かりました。

 帰宅して確認してみて驚いたんですが、もよぽん使用のベースがけっこうミック・カーンの例のWalのベース。あれに近いっていうかほぼ似た構成で。スティングレーベースなんかにも載ってるのと似た感じのハムのピックアップっていうんですか。ああいうのが2ヶ載ってて、ボルトオンでね。ネックは見た感じワンピースだった気がしますけど、そのつもりで見ていなかったので忘れてしまいました。若干小さめだが小さすぎはしないベース・キャビネットで私が見た感じちょっと離してマイクで拾う感じだったと思います。

 ついでに書くとキーボード豊島さんのアンプ兼モニターは銀色のランチボックス。あれは良いですよね。見た目も洒落てるし。
 あれをアコピの天板の上に乗せて耳の近くで聞いてマイクでも拾っている感じでした。57っぽい感じ。

 次はドラムの武藤さんなんですが、実力者ぞろいの贅沢なバンドにあって、その中でも素晴らしかった。
 ほんのちょっぴりと個人的な感想ですが、フィルを入れる時のスタイルって演奏家により様々かと思うんですが、この人は「オレが!」「ココで!」っていうタイプとは違いメンバー全体のイキオイをうまく引き取って曲に新しい推進力を与えて次の小節のアタマに渡すような印象がありました。
 柔道がうまい人に投げられると全然痛くないし自分がキレイに一回転しているんですが、ちょっとあんな感じがします。投げられて爽やかみたいな。
 フィルだけでなく平歌の部分も非常に歌っていていましたし、変わった拍子の曲であるとかスネアの打点とかハイハットのペダル・ワークがトリッキーな曲も叩いていてかなり器用な部分も堪能しました。
 やっぱり難曲の類であるせいかこの曲では他のメンバーが意図して4分の4を強く打ち出していたのが面白かったです。でもちゃんとまとまっていたと感じました。
 スネアでいうと響き線を下ろしてポンポンした音をマレットで叩きだすという楽しい局面もあって存分に聞かせていただいたという感想です。

 マイク的にはオーバーヘッドに1本吊ってあったのまでは分かりましたけど、目が悪くてね。凝視ができない感じなので他は不明です。

 次はリードを担当するテナー・サックスの長谷川さんなんですが、要するにこのバンドはキーボード豊島さんとサックス長谷川さんの双頭バンドと解釈するのが近いようです。
 普段はオカリナを吹く活動であるとか、元々はギターを持って国内を放浪したとか。なんか色々とされてるようなんですが、とにかく今日聞いたサックスの演奏は良かったです。力強くて表現力に富む演奏でした。
 かなり吹きまくる局面もあって大満足でした。「聞いた聞いた」っていう感じ。

 最後のアンコール曲ではサックスの首の部分だけを外して、指を中に入れてピッチを変えるという、私は初めて見てギョーテンしましたけど、特殊な演奏を聞きました。

 この当日の朝、私が聞いたラジオの話になるんですが、「現代の音楽」だったか「吹奏楽の響き」だったか、トランペットのマウスピースのみの演奏。そういうのを聞きまして。
 ひょっとしたら後の番組の「名演奏ライブラリー」でもマウスピースのみの演奏を聴いたかもしれません。
 なんか妙にこの日は特殊奏法を多く聞く日でしたね。なぜでしょう。

 あとはエレキギターか。
 このエレキギターの遠藤さんの存在がすごく良くて。

 バンドの全体的な音の構造としては、エレピとドラムでがっちり枠組みを作って強靭な推進力を担当し、サックスとベースで音として広がりを出すっていう仕組みかと思うんですが、ギターが実にいいクッションになっていて。その辺も注目して聞きました。チャカポコとワウを踏んでいるだけでもすごくイイ。実際そう感じたんですが、今日はその他のタイプの演奏もたっぷりと聞けました。

 けっこうエッジの立った音色を弾かれていました。私が見た限りピックアップはリア。
 3本くらいの弦をまとめて弾くと歪みが目立ってくるという絶妙な音色でのソロはカッコ良かった。
 曲としてかなり色んな風景が交錯するむずかしい構成が多かったですが、エレキギターに要求される風景もまた多く器用な部分を見せていました。
 音量のコントロールが絶妙で、うるさいところもなく、聞こえづらいところもなくうまくまとまっていたと思います。サラッと言いますけど気の抜けない連続だったと思います。

 そしてこのギタリスト遠藤さんの素晴らしいのは「弾かない演奏」も達者なんですね。テープエコーっぽい音を発振させて曲に混ぜるという特殊奏法。

 これはいわゆるバイオリン奏法を(さほど大きくない音で弾いて)発振させて(音量的に増幅させて)作っていたようです。

 ビートルズの「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」のウミネコの鳴き声みたいな「ミャーミャー」系の音を多く聞きました。
 他にも特殊奏法はかなり聞いたというか、ギターで可能な特殊な音はあらかた聞いたかなっていう印象でした。

 足元のペダルボードにひと通りのエフェクターは持ち込んでらしたようですが、手元の台にも数台のエフェクターが並んでいて、これはかなりお好きに違いないと思いました。

 ギター・アンプは12インチくらいだったと思いますけど1発の黒いアンプ。
 スピーカーのエッジギリギリに57っぽい外見のマイクを近接セッティング。そんな感じでした。

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 私のおぼつかないレポートで音楽性まで伝わるかどうか。
 しかし感じた部分を書いておきましょう。

 不穏な感じのファンクとかやってましたね。またまた個人的に聞いたラジオの話になりますが、実は当日の前の晩、NHK・FMの大友良英さんの番組(聞き逃し配信)を聞いたんですが、それと近い音楽性だったかもしれません。ジャズ・ファンクの特集でした。
 コーネル・デュプリーのギターが2曲ともめちゃくちゃカッコ良かったです。天才。ホントに素晴らしかった。

 選曲担当の大友良英さんですが、今後はNHKの威光をカサに着てジャズの権威として、おもしろおかしく暮らしていくおつもりなのかな、と私は勝手に思っていたのですが、まだヒトとしての良心の残滓がいくばくか残っているようで、ジャズ・ファンクの選曲者としても素晴らしかったです。

 番組では菊地成孔さんのデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・サルーンの12分超の若干マイルスっぽい不穏なファンクを聞けましたが、あんな感じをビオトポスのライブでも聞けまして、大変に楽しかったです。

 おそらくメンバーの少なくない部分がマイルス・ファンかなと思われる部分をヒシヒシと感じましたがどうなのか。私のコトですんでアテにはなりません。

 他の曲で進行としてはダニー・ハザウェイさんの「エヴリシング・イズ・エヴリシング」みたいな? 私は知識がないのでああいうのがジャズ・ファンクの王道的進行だと思っているんですが、しかしわりと近いものが聞けたと思います。嬉しかったです。ガッツリくるヤツね。あそうそう。ライブの構成としてはワンマンで休憩を挟む2部構成でしたので本当にたっぷり聴けて。正味として1時間ちょっとくらいは演奏してくれたのかな。あっという間でしたけど。

 それと私にジャズの知識がないせいでアヤフヤな言い方になりますが、やはり大友さんの番組で追悼絡みで流れたスティーヴ・グロスマンさんの作による曲もやったかもしれません。ラジオで流れたのとは別の曲かと思いますが。

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 1曲目の曲は「YOKAI」っていうベースのもよぽん氏の歌をフューチャーした曲だったのですが、この曲は全員が特殊な演奏をして幻想的な世界を鳴らしていて、冒頭から圧倒されました。
 こういうのは電気楽器であるとか電子機器は得意とするところですし、エレキを使う必然性の提示にもなっていて、私がそういうのが好きだっていうのもありますけど、嬉しかったです。

 その次は「アイム・ソーリー」だったか、曲名は自信がありませんがソフトな傾向の曲。だけど各自のソロは全然甘くない感じで聞き惚れました。もしかしたらジャズの世界では有名な曲なのかもしれません。

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 いやー。書きましたね。もう相当に好きな人じゃないと読み通せない。ひどい文章となりました。私以外には読める人がいないかも。しかしタマにですのでね。見逃して欲しいなと思います。

 今後のビオトポスにも非常に期待しております。
 私はロックのコトしか分かりませんので、専門の方がどう感じるかは分かりませんが。