TROMS〔b07〕ゲラティック号事件〔6〕

 イラストは早朝の寒々としたその日の光景を描きました。夜明けです。

 直前に見た暴走族のすごい人数と爆音との対比もあざやか。

 静かな朝です。

 こんな事件でもなければ、まず来ない。こんなところには。

 やっぱりスゴかったです。

 イラストでは私ならではの寸詰まりな感じで、貨物船ゲラティック号をかわいらしく描いていますけど実際は全部を視界に収めるのが大変なくらい長くてバカでかい。

 圧倒されました。

 ましてやこのイラストで見るような鳥瞰的かつ巨視的な視点というのは持てなかったというのが実際のところ。

 おクチあんぐりですよ。

 イラストの構図はもう私がずっと後になって獲得した職能と申しますか、「こうまとめると絵的にイイかな」っていうだけのものです。

 現地に身を置いて音とか風が吹いている感じとか太陽が出てきた感じとか船の先から後ろまでをググッと見ていく首の回転とかの現実のあり方と、ひとつの画面にアレやコレを集約して何かを伝えようとするイラストの作り方って、全然違います。当然ながら。

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 ああした非現実的な風景に接したのは、得がたい体験でした。

 “船が山を登る”なんていう比喩もございますけど、そうしたありえない光景を実際に目にするか否かっていうのはまた違うのではないでしょうか。

 イラストレーターなんていう職業をする上では良かったのかもしれません。