妖怪コマ・ドッグ〔4〕

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 ラジオ日記的にはいつも聞いているNHKラジオ第1「すっぴん!」。

 ゲストとして作家の寮美千子(りょうみちこ)さんのご出演。
 少年院での詩作のお話。

 自分の考えを言葉にする練習。
 それができずに犯罪に手を染めてしまうケースも多いそうです。
 断れずに犯罪グループに加わってしまったとか。そんな感じなのかと思いますが。

 思い出すのは少年犯罪ではないですけど、私がイラストレーターの職を1年間お休みして自動車の組み立て工場に勤めていた時期。私が三十路に飛び込む直前です。
 多くのいろんな人が勤めている職場でした。
 中には就業中に警察の人たちがやって来てその場で逮捕された人もいました。夜中のゴルフ場で人を殺したそうです。

 そんな調子で、中にはかなりヤバい人もいたんですけど、そうした強力犯だけじゃなく知能犯の人も当然いるわけです。
 休憩時間にサギまがいのもうけ話とかをしてるんですね。

 いい大人がそんなのに引っかかるワケがない。当然そう思うんですが、ああいう知能犯の人のドコが優れているかっていうと、ダマす手口が巧妙というより、断りきれない人を見出す能力に秀でているのではないかと思いました。

 私が職場で知り合った友達がその典型で、ごく普通の子なんですけど、変に気が弱い。
 特に「儲け」が絡んだ話に異様に弱い子でした。

 私は直接、くどかれてる現場を見たワケではないですけど、話を聞くにヘビににらまれたカエル。そんな構図だったようです。

 「身元も顔もバレてる職場でよく犯罪まがいのコトをするもんだ」という感想しかないんですが、びっくりするのがその知能犯オジさんでして、見た目はもう全く普通。むしろイイ人に見えました。若干チャラいかってのはありましたけど、そう思って見なければ全然普通の領域でした。
 そんな人が1対1の場所では「俺は刑務所入ってんだ」とかスゴムらしいんですよね。そしてソレがその場では効果をあげちゃうと。

 「警察にパクられるんだったらマヌケだって告白してるようなもんじゃん」って言ったんですけど、かなりの迫力だったんで気押されるしかなかったんだとか。
 要するに片方には「儲け話」というアメ。もう片方には「なめんなコラ」みたいなムチですよね。その両面攻撃でエモノの意志を乗っ取る。みたいな手口を垣間見たのでした。

 変なトコロで気が弱い、その私の友達っていうのは、大学時代に質の良くない違法薬物で前頭葉をちょっと燃やしすぎちゃったみたいで、欲望に忠実っていうか欲しいモノを見ると自然に手が前に伸びちゃうような危なっかしい人でした。あくまで「ような」で、実際に盗みはしないんですけど。

 ちょうど大学時代の前後に家庭が激動しちゃったみたいで、それが元で薬物に耽溺しちゃったという、まぁ同情できなくもない事情もあったみたいですけど、とにかく何が混ざってるかわからない、何の保証もない物質をみだりにカラダに入れるもんじゃないな、と思った当時の私でした。

 今、思い出しましたけど、私にビズ・マーキーっていうラッパーを教えてくれたのは彼でしたね。
 ビズは良いんですけど、当時のギャングスタ・ラップが私は非常に嫌いでしたので、そうしたものを勧めてくるのには閉口しました。
 サウンドがどれも代わり映えしないのもそうでしたけど、絶望的な状況をそのまんまヒネリもなく曲想に反映したダークな音世界が私には安易なものにしか映らなかったんですよね。およそ“昇華”っていう気風に乏しい。「最悪だけど楽しくやるぜ」って感じじゃなくって。
 「なんか軽やかな部分がなくなっちゃったな…」みたいに残念に思っていました。

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 変に長文になってしまいましたが、本日はもう1件あります。

 実は町内の「民生委員」の打診を1ヶ月前に受けておりまして、それへのお断りのために、現在の民生委員を務めている方のお宅を訪問してきました。

 もうその方が定年を2年ほど過ぎていて、なんとか次の民生委員を選ばなければならない状況。しかし、とにかく誰もやりたがらない。非常に困っております。我が町内としても。
 実は昨年度の町内会としてもあまり表沙汰にならない形で、次の選任のために努力したんですが、結果はゼロという残念な結果でした。

 そこで私におハチが回ってきちゃったんですね。

 私も町内の仕事をチョコチョコ引き受けてきましたのでわかっているんですけど、「町の仕事をしだすと、無限にコレもアレもと、わいてくる」のです。
 ですので私にしたところで、ことさらに困惑するとか、憤慨するとかはありません。こんなもんです。

 まぁ、きっとハタから見ると「あの人は楽しんでやってるんじゃないか」とか「適性があるんじゃないか」とか、そんな感じに見えるのかもしれません。
 全然違いますけどね。

 中には「あの人にコレをやらせて育ててやろう」とかそんな、ありがたい意図を持つ人もいるかもしれませんけど、大きなお世話ですよね。労力もリスクも全部こっち持ちなんですから。

 数年前に私は「福祉推進委員」というのをやりました。その時の研修で学んだ知識によると、民生委員のお仕事のひとつには、地域の包括支援センターと連携してご老人の処遇を決めたりするんですよね。
 けっこう他人の人生に深く関わる可能性もあるということです。

 さらに今回のお話をいただいて、改めて民生委員のお仕事というのを調べてみたんですが、驚きました。

 “地域のボランティア”という位置付けになっているようなんですが、私の感覚からするとこれは“懲罰”の範囲です。おそろしく過酷。

 それでいて臨時の公務員みたいな性質も有していて、公務員の法律に縛られる面もあるそうです。あれしちゃダメみたいな話ですね。
 厳しい守秘義務がある。くらいのコトまでは私も知っていたんですが、「まぁコレでよく引き受けてくれる人がいるもんだ」というのが素朴な感想。現代の聖人ですよ。

 そんなワケでお話をいただいたその日の晩にはお断りする意思を固めつつあったんですが、いちおう他の方たちのご意見も聞いてみました。

 連合町内会というか、私が関わっている生涯学習推進委員ですね。
 「何か知ってるかな?」っていうくらいだったんですが、思いの外に相当くわしくて聞いてビックリしました。

 やっぱりそっちの話も聞くにつけ大変そうです。

 ていうか、調べたり聞いたりしてみて「楽しいコト」。「いいコト」。「メリット」のたぐいって、ついぞ出会いませんでした。

 活動費を積み立てていて、地区の民生委員のみんなで旅行に行くんだよ。っていうお話でしたけど、旅行が嫌いな人にとってはそっちも地獄ですよね。

 私の場合ですと、自転車で知らない場所へひとりで行くのは好きなんですけど。
 まぁたびたび当ブログにおいて繰り返しますけど、クチを使ってしゃべるのが苦痛。できたら筆談にしてほしいっていうくらいですから、私には重荷です。
 仮に今の時点でお引き受けすると、やりたがる人は他にいないワケですから75歳の定年までフルにたずさわる可能性が濃いワケで、今後25年あまりの“懲罰”を受けるのかってなると暗い心境です。

 お年寄りのお宅に訪問して2時間とか3時間とかのお話を聞くコトもあるとか聞きましたけど、気が変になりますよね。だいたいそんな時間ありません。

 それとか孤独死してる現場を初めに訪れるケースもあるとか。孤独死だったらまだ良いのでしょうけど中には自死してるケースもあります。

 私はこういう商売をしてる人の中ではかなり神経がザツな方ですけど、さすがに自ら死を選んだ絶望の現場に足を踏み入れて帰宅した後にさぁ楽しいイラストを描こうかなっていう風にはなりにくいですよ。

 そもそも、私の場合、生涯学習推進員の運営委員として地域のイベント運営に関わっていくつもりですので、「掛け持ちはできません」っていう。そういうシンプルな理由もあります。

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 やっぱりこの民生委員というか正確に言うと民生委員・児童委員ですけど、これって行政が“業務”として行うべきなんじゃないですかね。

 お断りした身で言うのもなんですけど、町が次の人を選びきれない場合は空白でも良いんじゃないでしょうか。

 私の感覚ですと、このシステムを“ボランティア”として続けるのは相当に無理があります。
 誰かをイケニエにしてまで存続させるのは違うんじゃないかって気がしてなりません。