オバケ絵。

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 自転車を乗る時に使う手袋を加工しました。
 自転車用の手袋は金額的に高いので、作業用の手袋を流用します。
 作業用の手袋はビックリするくらい安いです。
(以下、全く関係のないような蛇足がトグロを巻きます。)


 私の場合、職業的に特に手は大事ですので、2枚重ねて自転車に乗ります。
 内側の手袋は、これからの季節ですと綿の手袋です。冬場は革の物を使います。厳冬時には更に内側に綿の手袋をします。寒さが厳しい時は3枚重ねなのです。
 では、一番外側の手袋はどうなっているかというと、指先を自分で切り落とし加工した半手袋と言うのでしょうか。そんな感じの物を装着しています。手袋の種類としては鉄筋工の人がしている様なタイプの手袋です。これも一応、革製だと思うんですが、値段は百円程度です。
 話は逸れるんですが、私が若い頃にビルの建設現場でアルバイトしていた頃の事を思い出してみますと、職種によって人の種類も違った事が蘇るのです。
 鉄筋工の人は、概して体格が良いです。筋肉質であり、脂肪も適度に付いている感じでちょっとプロレスラー的な人が多かったと思います。仕事着を脱いでも、肉体労働をする人だと一般の人の目にも分かるようなカラダつきです。
 ビルの場合、外壁をコンクリートで打つ場合も多いですが、工場で作られたパネルを骨組みに沿って貼付けて行く工法もあります。ALC工法と言ったと思います。
 この工法は比較的新しい業界なせいか、若い人が多く働いています。あまり熟練を必要としないという側面がそれを補強しているのかもしれません。バイクや車が大好きと言った感じのお兄ちゃんが多かったです。
 大工さんは年季の入った人が多いです。この場合の大工さんというのは、木造住宅を造る、いわゆる”大工さん”とは違って、”型枠(かたわく)大工さん”の事になります。ビルを造る大工さんです。
 ビルと言うのは、ごくザックリ説明しますと、1センチ程度の厚さの合板で”型”を作って、そこにコンクリートを注ぎ込む事で作って行きます。
 型枠大工さんの技術はかなり重要です。技術と経験が物を言う仕事です。基本的には、設計図通りに作る仕事ですが、ミリとかセンチの部分まで図面にする訳も行かないので、現場でつじつまを合わせる部分も多いようです。特に階段を作るのは難しいそうで、一番器用な人が当たるようです。
 型枠大工の場合、親方だと80に近い人が現場に出ていてビックリする事もあります。体格的には普通ですが、屋根が無い場所で作業をする事がママありますので、良く日に焼けています。
 私が働いていた東京近辺の大工さんの場合ですと、東北弁を喋る人が多かったです。
 未来的な意匠のビルが東北弁を操るおじちゃん達によって造られていると思うと、なかなか感慨深いですね。
 大きなビルの場合、地下が深い事も多くあるんですが、トイレが地上にある場合だと面倒になるんでしょうね。年齢的な事もあって階段を上るのがキツいのかも知れません。つまりその辺で用を足しちゃうんですね。これがもう地階のある場合は必ずと言っても良いくらい普通の出来事でした。
 まぁ未来的な意匠のビルの地階が、訛りのキツいおじちゃん達のオシッコで汚されているというのは、完成した後からだと全く分かりませんが、なかなか感慨深い物があります。
 私はと言うと、型枠解体の仕事をしていました。
 型枠にコンクリートを注入して数日経つと、固まってきます。石膏なんかもそうですが、コンクリートは固まる際に熱を発します。これが完全に冷えちゃうと、枠として作られている合板を剥がしにくくなってしまうので、まだ生暖かい内に枠を解体するのです。当然ながら季節によってハガシドキは違ってきます。
 枠は、あらかじめ解体しやすいように作ってあるので、カポっと外れるようになっています。枠は再利用します。ビルは大体の場合において、2階より上はほぼ同じ形をしていますから、流用が効くのです。一番シンプルな単なる壁面用の型枠は、他のビルでも使えますから、寿命が来るまで使い回す事になります。
 行きがかり上、型枠の説明にスペースを取られてしまいましたが、実は、私のしていた仕事の場合、型枠に触れる時間は案外少ないのです。キチンと作られていて、適正にコンクリ注入が済んでいれば、上にも書いた通り簡単に解体出来るからです。
 実際は大量のパイプと格闘する毎日でした。型枠は膨大な量のパイプで締め上げて、そこにドボドボとコンクリートを注入するのです。このパイプの張り巡らし方が悪いと、型枠を押し破ってコンクリートが床に溢れて来てしまうので、パイプの組み方もとても大切です。
 そう言った訳で、私が20年くらい前にしていた型枠解体の仕事は、型枠大工さん達の半歩後ろを付いて行く性質の物です。上に書いた地階で用を足すおじちゃんの件は、別に現場を目撃した訳ではありません。直後にその場所を担当するので、「アイツらに違いない」と分かるだけの事です。
 コンクリを打った後に雨が降ったりすると地階には水がたまります。ヒザまで水に浸かって型枠解体の作業をする場合もありましたが、そんな時に水がオシッコ臭いと、殺意が湧くのも全く仕方の無い事です。
 未来的な意匠のビルの建設作業においてオシッコに足を突っ込んで半泣きで作業をする集団が存在するというのは、なかなか味わい深い光景です。監督さんが気配り出来る人だと朝からポンプを動かして水を抜いてくれたりするんですが、不可避の悲劇もそれなりにあるのです。
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 そうそう、お話は建設現場における職業別の外見的差異に関する事でした。
 でももう良いですかね。それなりに盛り上がりも作れたような気がしますから軽く触れて終わる事にしましょう。
 まず我々、型枠解体ですが、これもアルバイトでこなせる部分が大きい職種でしたから若い子が多かったです。私も含めてですが、夢を追っている人種という感じでした。
 ビルが最上階の形成にかかってくると、下の方の階では電気や設備の人が出入りするようになります。この辺りの人たちは、ほとんど普通のサラリーマンと変わりません。たまたま作業服を着ていますが、ごく真っ当な人たちです。
 もっと後になると石材を貼ったりする段階になりますが、そうなるともう型枠の仕事は無いので、私はそれを目撃した事がありません。
 それと管理側の仕事として現場監督がありますが、ビル建設の場合、良く名前を知られた大企業から来ている人たちですから、真面目そうな人が多かったですね。かなり長時間の残業もあるみたいで大変そうです。
 最後にご紹介するのは監督さんの元で雑用をする人たちです。雑工さんと呼ばれていたような気がしますが、ちょっともう自信がありません。大工の会社から派遣されている場合もあれば、ビルを施行する会社が雇う場合もあったと思います。
 私が見た感じだと、ケガをしてフルには働けないけど軽い雑用なら出来ると言った元大工さんなんかも含まれていた気がします。しかしそうでもない人もちょくちょく居る感じで、得体の知れない感じもしました。
 ちょっと人生に投げやりになっているというか。そういう人は住む家が無かったり、家族と長い間、連絡を取っていなかったりします。朝なのにちょっと酒臭かったりして、あらゆる駄目な感じを身にまとっていたりします。
 夏場になると建設現場で中高年の作業員が、熱中症などで命を落としたりしますが、私がまず想起するのが、そんな感じのおじちゃん達です。
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 手袋の話をしていた筈なのに、こんな変な長い文章になってしまいました。
 もう20年ほども前の話ですから、今とはだいぶ状況が違うかも知れません。
 特に最後の下りで、戦慄された方も居るかも知れません。しかし実は、追い討ちをかけるつもりは無いのですが、この数年後に、自動車を組み立てる工場で働いた時に、私はもっと信じられないような人たちを目撃する事になるのです。