兵器ファッション・デザイナーのおじさんのお話です。
(以下、毎度おなじみダラダラとした長文。お薦めしません。)
実に突飛な職業です。兵器ファッション・デザイナー。しかも読んでいくと分かるんですが、別にファッションに限らない兵器デザインを扱う業務らしいのです。変な兵器がゾロゾロと出てきます。しかし被服としての武器は出て来ないので、銘打たれた”ファッション”という表記の果たす所が何の事やらさっぱり分からないです。ディックさんご自身が気に入っていたのでしょうか? あくまでお話中”兵器ファッション・デザイナー”として一貫させています。
別の小説では”タイヤの溝掘り職人”という職業を、私が知るだけで2度登場させていますし、変な職業を思いつくと愛着が湧く人だったのでしょうか。「こんなバカな職業を思いつけるのは、世界に俺だけ!」とか誇ってしまうのは、SF作家には多そうですが…。
タイトルになっている『ザップ・ガン』というのは、実はほとんど活躍しなくて、ほんのチラッと名前が出てくる程度です。
ちょっとP-Funkの『バップ・ガン』を想起しちゃうのですが、無関係かつ、P-Funk以前に書かれた小説です。
余談ですが、こうタイトルに大書されているにも関わらず、題名と内容が大してかみ合ってない小説の表紙絵を描くイラストレーターって悩みそうですよね。
────────────────────
再読するのは実に久しぶりです。手に入れたのが、20代前半。その時、2度読んだ記憶があります。それ以来ですから、おそらく20年ぶりに読むお話。ほとんど内容を忘れていました。
ディックが過去に書いた短編や、書いてきた事の寄せ集め的な趣きもあります。別のパターンとして、短編を(キチンと)長編に育てた感のあるお話も多いのですが、この『ザップ・ガン』については、どうも書いてるうちに「あれ使えないかな…。」なんてノリでツギハギしたんじゃないかと勘ぐってしまいます。あくまで邪推ですが。
なんでこんな風に思えてしまうかというと、非常に強引な筋立てなのですね。邪推ついでに書いちゃいますが、いけないおクスリで、トびっぱなしの内に創作してしまったのでは…という気がします。決してディック自身が「所々良い所はあるけど、前半は読めない。マジ読めない。」と言っているからだけではありません。
元々、ディックは読者に親切な書き方をする作家ではありませんが、またそれとは別。どうにも唐突と言うか、とってつけた様な、局面の連続です。むしろ「どう? ヒドいでしょ? ついて来れる?」という様な挑戦的な姿勢なのかとも思えてきますが、そう言う計算でもないような…。困った物です。
しかし兵器ファッション・デザイナーのおじさんが、自身では無から有を、霊感によって拾い上げていたと思い込んでいた着想の数々が、単にある人物の頭に湧いたアイディアを覗き込んでいたに過ぎなかった…という構図は実に面白かったです。同時にあまりにヒドい、あんまりだ!とも言えますが、ヒドすぎて面白い。最高です。
短編『歴戦の勇士』のエピソードを丸のまま流用かな?と思わせて、別の広がりを見せるくだりも面白かったです。おもちゃが兵器になるという別の短編もありました。しかしあのお話に出てくるおもちゃとはまた違う、ディックさんが良く持ち出す”共感”に大きく焦点を当てた物でした。
この”共感の問題”が持ち出されたあたりから、俄然、お話の流れに確固とした足取りを感じてしまうのは私だけでしょうか。ただし、しばらくすると再び何かあまり締まらなくなっていく感もありましたが…。
────────────────────
ページを1枚、1枚めくりながら、この展開はアリか、ナシかみたいに、他のディックファンの方とヤイヤイ言いながら過ごしてみたいですね。全体でどの展開が一番あり得ないか決めたりして。
きっと簡単に一晩つぶれてしまうでしょう。この『ザップ・ガン』については、そんな失礼な遊び方でも、作者たるディックさんが許してくれそうです。